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第97回薬剤師国家試験問題:問71

薬剤師国家試験が終わり、その試験問題があきらかになりました。

薬剤師国家試験の問題の作成基準をつくる会合についてあれこれ見てきましたが、そのひとつの結論がでたわけです。

  ☆

「法規・制度・倫理」の一般問題(問306~問325)は、

全20問のうち、

問311だけが明確に倫理で、あとは問題基準で「薬剤師業務の基礎」のカテゴリーに入っている「チーム医療」に関する問324と問325あたりが、「倫理問題」といえそうです。

倫理にあたる問題は、実質、3問。

これは、倫理関係問題数を確保しなければ法規と制度の問題だけが倍増するだろうという、従来からの危惧通り。

あ、基準については、こちら厚労省でご確認ください。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000tabj-att/2r9852000000tad0.pdf

  ☆

「法規・制度・倫理」の必須問題(問71~問80)は、

全10問のうち、

問71、問76、問80の、3問。・・・に、ぱっと見、見えます。

必須問題ですから、サクサク解けるカンタンな問題が並ぶとはいえ。

問76は、薬害関係者が見たら怒るんじゃないかなー、と思える扱い。

「薬害の原因物質によって引き起こされた有害事象をひとつ選ぶ」

という問題なのですが、

薬害を学ぶ本質には全く触れていないので、

これが「薬剤師として相応しいかどうかを判断する試験」の倫理の問題として良問かというと、疑問がたっぷり。尋ねているのは「ある薬を不適切に用いた場合の副作用は何?」ということだけですから、むしろ薬理の問題です。これを倫理の問題としてカウントしろといわれても、承服しかねます。

【法規・制度・倫理】の問題出題基準には、「薬害(サリドマイド、スモン、血液製剤、ソリブジンなど)の原因と社会的背景」「薬害を防止するための手段」と記載されています。

つまり、「原因」や「社会的背景」の知識や「防止策」こそが、薬剤師に求められているのであって、起こった事象だけを知識として知っていることは、それらの前提条件でしかない当たり前のこと(事象を知らなければ回答できない)なので、倫理の問題としては出題しない、と「出題基準を決めた人たちが考えた」ということです。

いくら「簡単な問題」が並ぶ必須問題でも、「倫理問題」の項目に「倫理問題ではない問題」があるのは、反則だと思います。

  ☆

問80は、治験領域の問題としての、あるいは、医療の担い手としての使命としての、あるいは、医療行為としての、インフォームドコンセント。

問題基準には「インフォームドコンセントと守秘義務」「インフォームド・コンセントの定義、必要性」と記載されています。(あちこちの小項目に書いてあります)

インフォームドコンセントの目的として適切ではないものを選ぶのですが、

選択肢のひとつ(たぶん、不適切なもの)が、

『医療過誤の責任を回避する』

となっていて、うっかりして「実際には、そういう側面もあるよね。だって、『インフォームドコンセントをどんな人が行うのかは問題文に書いてないし』」と納得してしまいそうでした。

【インフォームド・コンセントの在り方に関する検討会】が言っている目的を考えればよさそうです。少し抜粋してみます。

2 インフォームド・コンセントの基本的な考え方

1)インフォームド・コンセントの基本理念

 インフォームド・コンセントには、(1)医療従事者側からの十分な説明と(2)患者側の理解、納得、同意、選択という2つのフェーズがある。すなわち、インフォームド・コンセントとは、幅広い内容を含むものであって、単に医療従事者が形式的な説明をすることでもなければ、患者のサインを求めるものでもないということである。
 まず、第1のフェーズにおいては、医療従事者側から患者の理解が得られるよう懇切丁寧な説明が、あらゆる医療(検査、診断、治療、予防、ケア等)の提供において必要不可欠であることが強調されるべきである。この際、医療従事者からは医学的な判断に基づく治療方針等の提示を行うことが求められるが、患者の意思や考え方に耳を傾け、それぞれの患者に応じたより適切な説明とメニューの提示がなされることが必要である。
 健康診断における検査や予防接種など保健分野においても十分な説明が必要である。
 第2のフェーズにおいては、患者本人の意思が最大限尊重されるのが狙いであって、患者に医療内容等についての選択を迫ることが本来の意味ではない。また、
文書で患者の意思を確認することは、1つの手段として重要であるが、目的ではないことを理解する必要がある。

1  日本にふさわしいインフォームド・コンセントの目的と理念

 わが国におけるインフォームド・コンセントは、米国で反省されている患者の権利の主張と医療従事者の責任回避という対立的側面でとらえるべきではなく、より良い医療環境を築くという基本的な考え方に基づくものでなければならない。すなわち、自己の権利のみを主張する患者や、形式的に患者の同意を得ようとする医療従事者を想定したものではなく、懇切丁寧な説明を受けたいと望む患者と十分な説明を行うことが医療提供の重要な要素であるとの認識を持つ医療従事者が協力し合う医療環境を築くことが目標なのである。
 言い換えるなら、インフォームド・コンセントを成立させるためには、医療現場における患者と医療従事者の関係を上下関係や対立の構図で考えるのではなく、相互の立場を尊重し、相互の理解を深める努力が必要であり、究極において、患者のクオリティ・オブ・ライフ(生活と人生の質)の確保・向上を目的とした質の高い医療を達成しようという考えが必要である。
 インフォームド・コンセントとは、医療に制約を加えようとするものではなく、医療従事者の知識と技能を最大限に発揮するための環境づくりであり、医療行為の基本的な要素であり、態度であると言える。

1  インフォームド・コンセントを一律に法律上強制することについて

 インフォームド・コンセントの普及・定着をより積極的に図るため、インフォームド・コンセントの実践を法制化すべきであるとの見解もあり得よう。確かに、医療が患者と医療従事者相互の信頼関係に基づいて提供されるべきであって、相互の信頼関係の構築にインフォームド・コンセントが重要な役割を果たすことについては、医療従事者側においてもコンセンサスが得られつつあり、判例においても、法律上の説明義務を認めたものも存在する。
 しかし、個々の患者と医療従事者との関係において成立するインフォームド・コンセントについて、画一性を本質とする法律の中に適切な内容での規定を設けることは困難であり、また、
一律に法律上強制する場合には、責任回避のための形式的、画一的な説明や同意の確認に陥り、かえって信頼関係を損なったり、混乱させたりするおそれもあることから、適切ではない。

なるほど。

「責任回避」は、「法律で強制した場合はインフォームドコンセントの目的になりうる」から、日本では法的に義務化しない、ということですね。

で、アメリカでは、「患者の権利の主張」と、それに対応する形での「責任回避」こそがインフォームドコンセントの目的だった「らしい」ということを前提として、「日本では、そうではない」と言っているようです。

と、なると、単純に「インフォームドコンセントの目的」とだけ書いてしまうと、日本版と米国版で解釈が異なることになりそうです。

米国版をとれば、「知る権利」と「責任回避」がセット。

日本版では、「知る権利」と「責任回避」は、適切ではない。

日本の薬剤師の国家試験問題ですから、日本版を想定すればよいのでしょうか。

だとすると、選択肢には、

『患者の知る権利を尊重する』

という項目がありますので、それも適切ではないことになりそうです。

これは問81の『ファーマシューティカル・ケア』という言葉に対して「WHOは」という特定の定義を示したのとは異なり、なんとなく、ふにゃふにゃした印象が残ります。

「治験」「医療の担い手としての使命」「医療行為」に「医療過誤」は存在しない、という超展開な見方もありますが・・・はてさて。

  ☆

必須問題の問71は日薬の薬剤師倫理規定を基にした画期的な設問。

問:薬剤師が倫理的に配慮すべき事項として、ふさわしくないのはどれか。1つ選べ。

選択肢1:職務上知り得た患者の秘密を守る。

選択肢2:薬剤師職能間の相互協調に努める。

選択肢3:医薬品の安全性の確保に努める。

選択肢4:地域医療の向上のための施策に協力する。

選択肢5:社会全体の医薬品消費量の増加を促す。

・・・という問題。

選択肢1が、第九条。

第9条(秘密の保持)
 薬剤師は、職務上知り得た患者等の秘密を、正当な理由なく漏らさない。

選択肢2が、第八条。

第8条(職能間の協調)
 薬剤師は、広範にわたる薬剤師職能間の相互協調に努めるとともに、他の関係職能をもつ人々と協力して社会に貢献する。

選択肢3が、第六条。

第6条(医薬品の安全性等の確保)
 薬剤師は、常に医薬品の品質、有効性及び安全性の確保に努める。また、医薬品が適正に使用されるよう、調剤及び医薬品の供給に当たり患者等に十分な説明を行う。

選択肢4が、第七条。

第7条(地域医療への貢献)
 薬剤師は、地域医療向上のための施策について、常に率先してその推進に努める。

薬剤師倫理規定の後半部分の、渋いところをもってきたようです。でも、それが、いい。

これまで、薬剤師法第一条(≒薬剤師倫理規定第一条)と、刑法134条(≒薬剤師倫理規定第九条)としてしか出題されなかった(つまり、国家に認められてなかったといってもいい)日薬の薬剤師倫理規定が、ついに、国家試験問題に出るようになったわけです。(まあ、これまでの国家試験の範囲には「倫理」がなかったと言われたらそれまでですが)

問71こそは、記念すべき、日薬の薬剤師倫理規定を、国家が認め、国家資格者に対して必須の事項であると世に問うた瞬間です。ぱちぱちぱちぱちぱち~♪ 拍手。

かくして、かつて、【医療の担い手(薬剤師)が守るべき倫理規範】は、日薬の制定した「薬剤師倫理規定」であると明記してよーっ!と意見を提出しても明記されなかった部分が、試験問題の形で、過去問として明記されました。

国家試験に出るのでは、仕方がありません。薬剤師倫理規定を覚えましょう。擬人化。(←そこかい)

  ☆

注:問71の選択肢5が間違っているとは言い切れません。社会全体の医薬品消費量の増加を促すことが国民の健康な生活のために必要である場合、薬剤師倫理規定第一条の遵守となり、倫理的に間違っているとは言えなくなります。

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